目 次
1. | 胆道がんとは? |
2. | どのような症状があるのでしょうか? |
3. | どのような検査を受けるでしょうか? |
4. | 胆道がんの治療は具体的にはどうするのでしょうか? |
胆管は、肝臓の中にある肝内胆管と、肝臓の外から十二指腸までを結ぶ肝外胆管とに分けられます。肝外胆管の途中から、胆汁の一時的な貯蔵庫である、胆嚢が枝分かれしています。胆道がんは肝臓が産生する消化液「胆汁」を流す胆管から発生するがんの総称で一般的には以下の疾患が当てはまります。
◯ 遠位胆管がん(下部胆管がん、中部胆管がん)
◯ 肝門部領域胆管がん(肝門部胆管がん)
◯ 肝内胆管がん(胆管細胞がん)
◯ ファーター乳頭部がん
◯ 胆嚢がん
肝内胆管にできたがんは胆管細胞がんとして、肝細胞がんと一緒に取り扱われます。胆道がんは肝外胆管に発生するもので、遠位胆管がん、肝門部領域胆管がん、ファーター乳頭部がんと胆嚢がんに分類されます。日本においてこのがんによる死亡率は徐々に増加しつつあります。男性では胆管がん、女性では胆嚢がんが多いとされ、60~70歳代が好発年齢です。
この胆道がんは一般に手術が難しいことが多く、顕微鏡下肝動脈吻合や肝+膵臓同時切除など高度な手技を要するため、施設によって手術の限界が違うことがあります。また年間数例のみの経験不足の中での手術が行われることがあり得る病気です。それに対して慶應病院だけでも年間30例近い切除に加え3施設すべての症例に手術手技を含めて従事することにより、総年間症例数40例~50例の切除経験を治療に活かしています。これは毎週手術治療に従事しているペースであり、これほど多くの患者様の治療に従事するグループは国内でわずかです。
早期の胆道がんでは症状がないことが多いですが、進行した時の最初の症状としては腹痛や腹部違和感、全身倦怠感などが見られます。腫瘍が胆管を閉塞して黄疸を来たすようであれば、皮膚のかゆみ、灰色~白色の便、褐色尿が出現します。同時に感染が起きると、発熱や腹痛が認められます。
胆嚢がんの深達度診断には腹部超音波や超音波内視鏡を用います。またCT、MRI、血管造影を行い病変の位置のほか、病変の広がりの程度を確認して切除可能か判断します。具体的には、肝臓への直接浸潤や肝内転移、肝門部や十二指腸/結腸への浸潤、リンパ節/遠隔転移、腹水の有無を確認して、切除可能と判断されれば腫瘍の進展様式にあわせて術式を決定します。
肝門部胆管がんにおいても、まず各種画像診断で病変の位置、進展度、肝浸潤や肝内転移、壁外浸潤(門脈および動脈への浸潤の有無)、リンパ節および遠隔転移、腹水の有無を確認します。切除可能と判断された場合は、ほとんどの症例で閉塞性黄疸を発症しているため術式を考慮した上で、残肝予定側から内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD: endoscopic naso-biliary drainage)または経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD: percutaneous transhepatic biliary drainage)を行います。黄疸の改善後に胆道造影を行い、病変の進展範囲を同定すると最終的な肝切除術式が決定します。黄疸は急に起こるため近隣病院で緊急入院となり、がんの診断の前に内視鏡による黄疸治療を開始するケースが多いのが特長です。多くはこの時点で鼻や体幹からチューブが挿入され、そのまま根治的外科手術を勧められることが多いですが、上記の様に決して患者さん数の多くない病気ですので診断、手術、術後合併症対策に精通した施設をしっかりと見極める必要があります。
中下部胆管がんでも同様に診断を進めますが、とくに膵浸潤の有無が重要になります。
なお、胆嚢がんや胆管がんでは術前に門脈塞栓術を行うことがありますが、適応としては肝門部胆管がんのほか、上~下部胆管がん、胆嚢がんのうち肝門部への浸潤が疑われ肝拡大右葉切除や肝膵十二指腸切除が予定術式の場合などが挙げられます。これは腫瘍の位置によっては肝臓の切除量が多くなることがあり、残存予定の肝の体積が小さいと術後に肝不全となりえます。一旦肝不全に陥ると救命が困難であることが多いため、切除予定領域の門脈を塞栓することで同部の肝萎縮と、残存予定領域の代償性肥大を図り、肝切除の適応拡大および術後の肝不全対策としています。方法としては局所麻酔を用いて超音波ガイド下で目的とする門脈内にカテーテルを進め、門脈造影後に塞栓する経皮経肝門脈塞栓術(PTPE: percutaneous transhepatic portal vein embolization)と、全身麻酔下で右下腹部の小開腹を行った後に回結腸静脈の分枝から門脈に到達し、目的門脈を塞栓する経回結腸静門脈塞栓術(TIPE: trans ileocolic portal vein embolization)があります。現在当院ではPTPEを選択することが多くなっています。門脈塞栓術による合併症としては出血や血腫、血管および胆管損傷、胆管炎、肝機能障害などが挙げられます。
胆道がんに対して根治を目指す治療法は手術のほかにはありませんが、腫瘍の存在部位および進展様式により術式は多岐に分かれます。肝外胆管は、肝十二指腸間膜という肝臓と膵臓・十二指腸の間にある間膜内に存在し、この肝十二指腸間膜内には、他にも門脈や肝動脈という重要な血管も走行しています。そのため、他の臓器がんに比べると、根治術のために重要な血管を合併切除することが多くなります。
肝外胆管は肝門部・中部・下部・ファーター乳頭部の4つに区分され、それぞれにがんが発生します。肝門部胆管がんでは、胆管に沿った進展範囲と各脈管の位置関係で肝切除の範囲が決定されますが、多くの場合は肝臓を左右どちらか半分を、またはそれ以上を、切除する手術となります。複雑な解剖構造である肝臓の入り口に発生する胆道がんでの手術のポイントは血管切除ができるかどうかです。これは常に多くの血管手技を経験する外科医でなければ安全に施行できません。血管切除に慣れていない場合は無理に腫瘍をはがしとることもあり、がんを露出することになりかねません。胆管がんを治すには手術しかなく、肝門部領域胆管がんの治療では、これまでの項で述べてきました術前検査、手術シミュレーション、門脈塞栓術、血管合併切除・再建、周術期管理といったあらゆる知識・技術を駆使し、根治的かつ安全な手術・治療を追究しております。
中部・下部胆管がん、ファーター乳頭部がんでは、胆管と膵臓の1/3・十二指腸を合併切除する、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術が標準術式となっています。難易度の高い手術ではありますが、当院では年間20~30例の膵頭十二指腸切所術を行い、安定した治療成績を上げています。がんの進行度によっては肝臓やその他の臓器の合併切除、重要な血管の合併切除・再建が必要となる場合もあります。
胆嚢がんに対する手術術式は、進行度によって大きく異なります。腫瘍が胆嚢壁内にとどまっている場合は、胆嚢を切除するだけで良好な予後が得られます。一方、胆嚢の壁を越えたがんにおいては、腫瘍の主座や肝浸潤、胆管浸潤の形式によって肝切除や肝外胆管切除、リンパ節郭清を追加することが必要となります。進行胆嚢がんにおいて、多く施行される術式は拡大胆嚢摘出術であり、これは胆嚢を含めて隣接する肝臓の一部とリンパ節を一緒に切除する方法です。胆嚢がんが肝臓に広範囲に浸潤している場合は、肝臓の右葉を切除する必要が生じ、また総胆管にがん浸潤が認められる場合は、肝外胆管切除が必要となる場合もあります。膵頭部や十二指腸に強い浸潤を認める場合は、膵頭十二指腸切除が施行される場合もあります。
胆道がんは手術切除が基本であることは間違いありませんが、一方で手術切除がなされても再発率の高いがんでもあります。特にリンパ節にがん細胞を認めた時の再発率は極めて高いと言われています。その対応策として手術前、手術後の抗がん剤や放射線治療の組み合わせによる手術成績の向上が求められています。こういった複合治療はいまだ確立する(標準化する)には至っていないため、倫理委員会等により承認をうけた「臨床研究プロジェクト」をしっかりと持つ施設で「諦めない治療」を模索する必要があります。
現在、切除不能胆道がんや切所後の再発例に対してはゲムシタビン(ジェムザール)単独、S-1(TS-1)単独、そしてゲムシタビン+シスプラチン併用療法が標準治療とされています。このうちゲムシタビン+シスプラチン併用療法に関しては、予後延長効果についてゲムシタビン単剤と比較した臨床試験にて、有意に予後を改善することが示され、第一選択の標準治療として考えられています。当院では患者さんのがんの進行度や患者さんの全身状態を考慮し、腫瘍内科や消化器内科と相談の上、最適な化学療法を提供しております。
術前化学放射線療法や術後補助化学療法については未だ確立されたものはありません。手術が胆道がんを根治できる唯一の治療法ではありますが、術後再発をきたしてしまう患者さんがいることも確かです。当施設では手術に加えて術前化学放射線療法や術後補助化学療法を組み合わせた集学的治療の確立と普及を目指し、関連施設との共同研究を行っています。
手術の治療成績をより向上させるための術前治療プロトコール(術前化学放射線療法)を院内倫理委員会承認の上、実施しています。安全性を確認しながら手術単独治療を超える結果を模索しています。
胆管がんは他のがんに比べると腫瘍の浸潤範囲による手術の可能性が施設により大きくことなります。それは切除+再建できる血管が外科医により違うことがひとつの大きな原因です。手術によるがんの遺残は再発に直結します。慶應は複雑な血管吻合を駆使する肝移植と胆管がん治療を同じ外科医が両立している日本で数少ない施設であるため、胆管がん切除の可能性を限界まで高めています。自家血管グラフトの使用や体外肝切除(ex vivo肝切除)も常に協議検討しています。他院で切除不能と診断された患者さんの最後の可能性まで追求します。
大量肝切除や膵切除により大きな侵襲が加わることで様々な手術関連合併症+死亡のリスクがあるのがこのがん治療の問題点です。胆道がん手術を含む肝胆膵高難度手術は術後在院死亡率が 5%前後といわれている高リスク手術ですが、多くの肝胆膵手術をこなすことで日本肝胆膵外科学会が認定する高度技能施設(High volume center; 全国で約200施設)ではこの死亡率が膵切除1.4%・肝切除2.2%(2013年)と低い傾向があり、やはり経験が重要な要素であると言えます。しかしこれらの施設でもゼロには至っていません。慶應では過去6年間に高難度手術140例以上の肝門部胆管癌根治切除を行い、90日以内死亡率が0.7%と良好な成績をおさめております。これは充実の外科医数により構成される濃厚なチーム医療と、併存疾患対策としての専門各科との密接な連携にあります。高齢化社会においてがん専門医以外(内科や放射線科など)との強力なネットワークも術後在院死亡率ゼロには極めて重要です。
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