臓器移植

胆道がん(胆嚢がん、胆管がん)

1.胆道がんとは?

肝臓が産生する消化液「胆汁」を流す胆管から発生するがんの総称で一般的には以下の疾患が当てはまります。

◯ 遠位胆管がん(下部胆管がん、中部胆管がん)
◯ 肝門部領域胆管がん(肝門部胆管がん)
◯ 肝内胆管がん(胆管細胞がん)
◯ ファーター乳頭部がん
◯ 胆嚢がん

これらのがんは日本人を含むアジア人に多い傾向がありますが全体としては他のがん種(胃がん、大腸がんなど)に比べると患者数が少ないのが特長です。つまり比較的大きな病院でも年間手術患者数は10例 /年に満たないことが多いのです。そこでわれわれは、慶應義塾大学外科出身者を中心として手術クオリティーが保証された3施設(いずれも日本肝胆膵外科学会で定める高度技能専門施設=high volume center)で『手術前診断+手術+手術後管理を徹底共有したチーム体制』を確立し数多くの患者様に適切な治療を提供しています。
この胆道がんは一般に手術が難しいことが多く、顕微鏡下肝動脈吻合や肝+膵臓同時切除など高度な手技を要するため、施設によって手術の限界が違うことがあります。また年間数例のみの経験不足の中での手術が行われることがあり得る病気です。それに対して慶應病院だけでも年間30例近い切除に加え3施設すべての症例に手術手技を含めて従事することにより、総年間症例数40例?50例の切除経験を治療に活かしています。これは毎週手術治療に従事しているペースであり、これほど多くの患者様の治療に従事するグループは国内でわずかです。


2.胆管がん治療のポイント

1.手術治療施設の見極め


このがんの患者さんの多くが「黄疸」で発症します。黄疸は急に起こるため近隣病院で緊急入院となり、がんの診断の前に内視鏡による黄疸治療を開始するケースが多いのが特長です。多くはこの時点で鼻や体幹からチューブが挿入され、そのまま根治的外科手術を勧められることが多いですが、上記の様に決して患者さん数の多くない病気ですので診断、手術、術後合併症対策に精通した施設をしっかりと見極める必要があります。


2.血管切除が根治性を高めるポイント


複雑な解剖構造である肝臓の入り口に発生する胆道がんでの手術のポイントは血管切除ができるかどうかです。これは常に多くの血管手技を経験する外科医でなければ安全に施行できません。血管切除に慣れていない場合は無理に腫瘍をはがしとることもあり、がんを露出することになりかねません。


3.手術が大原則、しかしその限界にどう向き合うか


手術切除が基本であることは間違いありません。しかし一方で手術切除がなされても再発率の高いがんでもあります。特にリンパ節にがん細胞を認めた時の再発率は極めて高いと言われています。その対応策として手術前、手術後の抗がん剤や放射線治療の組み合わせによる手術成績の向上が求められています。こういった複合治療はいまだ確立する(標準化する)には至っていないため、倫理委員会等により承認をうけた「臨床研究プロジェクト」をしっかりと持つ施設で「諦めない治療」を模索する必要があります。


3.当院(慶應グループ)での胆道がん治療

1.術前治療プロトコールを持っている = 臨床試験


手術の治療成績をより向上させるための術前治療プロトコール(術前化学放射線療法)を院内倫理委員会承認の上、実施しています。安全性を確認しながら手術単独治療を超える結果を模索しています。


2.高難度血管合併切除を得意とする = 切除限界の先へ


胆管がんは他のがんに比べると腫瘍の浸潤範囲による手術の可能性が施設により大きくことなります。それは切除+再建できる血管が外科医により違うことがひとつの大きな原因です。手術によるがんの遺残は再発に直結します。慶應は複雑な血管吻合を駆使する肝移植と胆管がん治療を同じ外科医が両立している日本で数少ない施設であるため、胆管がん切除の可能性を限界まで高めています。自家血管グラフトの使用や体外肝切除(ex vivo肝切除)も常に協議検討しています。他院で切除不能と診断された患者さんの最後の可能性まで追求します。


3.術後合併症死亡率ゼロへ = 病院の総合力


大量肝切除や膵切除により大きな侵襲が加わることで様々な手術関連合併症+死亡のリスクがあるのがこのがん治療の問題点です。胆道がん手術を含む肝胆膵高難度手術は術後在院死亡率が 5%前後といわれている高リスク手術ですが、多くの肝胆膵手術をこなすことで日本肝胆膵外科学会が認定する高度技能施設(High volume center; 全国で約200施設)ではこの死亡率が膵切除1.4%, 肝切除2.2%(2013年)と低い傾向があり、やはり経験が重要な要素であると言えます。しかしこれらの施設でもゼロには至っていません。慶應では昨年(2014年)の高難度手術125例で術後在院死亡率ゼロを達成しました。これは充実の外科医数により構成される濃厚なチーム医療と、併存疾患対策としての専門各科との密接な連携にあります。高齢化社会においてがん専門医以外(内科や放射線科など)との強力なネットワークも術後在院死亡率ゼロには極めて重要です。


4.各種胆道がんへの取り組み

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1.肝門部領域胆管がん


術式は、がんの範囲と脈管との位置関係で決定されますが、多くの場合は肝臓を左右どちらか半分、またはそれ以上切除する手術となります。さらに胆管・動脈・門脈の位置関係が最も複雑なのがこの肝門部領域です。このため、残る肝臓の容積は十分か?血管の合併切除・再建が必要か、可能か?等様々なハードルがあります。

しかし、胆管がんを治すには手術しかありません。肝門部領域胆管がんの治療では、これまでの項で述べてきました術前検査、手術シミュレーション、門脈塞栓術、血管合併切除・再建、周術期管理といったあらゆる知識・技術を駆使し、根治的かつ安全な手術・治療を追究しております。




2.遠位胆管がん・十二指腸乳頭部がん


胆管と膵臓の1/3・十二指腸を合併切除する、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術が標準術式となっています。難易度の高い手術ではありますが、当院では年間20~30例の膵頭十二指腸切所術を行い、安定した治療成績を上げています。がんの進行度によっては肝臓やその他の臓器の合併切除、重要な血管の合併切除・再建が必要となる場合もあります。


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3.胆嚢がん


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がんの進行度により術式は多岐に渡ります。腫瘍が胆嚢壁内に留まっているような早期の場合には、腹腔鏡下胆嚢摘出術だけで良好な成績が得られます。

一方、進行胆嚢がんでは拡大胆嚢摘出術がしばしば行われます。これは胆嚢を含めて隣接する肝臓の一部とリンパ節を一緒に切除する方法で、当科ではこの術式に腹腔鏡を積極的に取り入れています。
がんの進展範囲によっては肝切除術や膵頭十二指腸切除術、血管や他臓器の合併切除が必要となることもあります。




4.肝内胆管がん(胆管細胞がん)


肝内胆管がんは、一般的に肝臓がんとして分類されますが、がんの性質としては胆管がんに分類されます。肝内胆管がんの術式は、がんの肝臓内における位置と大きさで決まります。

当院ではがんが小さく、肝臓の辺縁等取りやすい場所にある場合には腹腔鏡手術を行っております。
がんが大きく、胆管・門脈・動脈が絡み合う肝門部領域に近い場合には、術前に入念な手術シミュレーションが必要となります。この際、残る肝臓の容積が不十分と判断されれば先述の門脈塞栓術を行います。手術シミュレーションでがんの血管浸潤が疑われれば、重要な血管の合併切除・再建が必要となることもあります。


5.化学療法と放射線治療


現在、切除不能胆道がんや切所後の再発例に対してはジェムザールとシスプラチンを組み合わせた化学療法が標準治療とされています)。当院では患者さんのがんの進行度や患者さんの全身状態を考慮し、腫瘍内科や消化器内科と相談の上、最適な化学療法を提供しております。

術前化学放射線療法や術後補助化学療法については未だ確立されたものはありません。手術が胆道がんを根治できる唯一の治療法ではありますが、術後再発をきたしてしまう患者さんがいることも確かです。当施設では手術に加えて術前化学放射線療法や術後補助化学療法を組み合わせた集学的治療の確立と普及を目指し、関連施設との共同研究を行っています。



※参考文献
1)T Okusaka, K Nakachi, A Fukutomi, et al: Gemcitabine alone or in combination with cisplatin in patients with biliary tract cancer: a comparative multicentre study in Japan. British Journal of Cancer 103, 469?474, 2010

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