目 次
1. | 肝移植の概要 |
2. | 肝移植の対象となる病気 |
3. | 肝移植のドナー |
4. | 手術の実際 |
5. | 長期予後 |
6. | 慶應義塾大学病院の実績 |
7. | さいごに |
肝臓は人間にとって、無くては生きていけない臓器です。肝臓が悪くなってしまい回復しないと、生活に支障がでたり寿命が縮んでしまったりします。そのような病状の時に、肝臓移植をすることで助かる命があります。
肝臓が悪くなり肝移植を受ける患者さんをレシピエントと呼びます。レシピエントに肝臓を提供する人をドナーと呼びます。肝移植手術ではレシピエントの肝臓を摘出し、ドナーからの移植片(グラフト)をレシピエントの体内に移植します。
日本では年間約400件の肝移植が行われています。肝移植をすることで、長生きできたり生活の質(QOL)が改善したりすることが望めます。
肝移植の対象となる患者さんは、進行性の肝疾患のため末期状態にあり従来の治療方法では余命1年以内と推定されるものです。ただし、疾患によっては余命1年にこだわりません。先天性の疾患のためQOLが非常に悪くなっている場合なども適応になり得ます。
具体的な病名は、急性肝不全昏睡型、遅発性肝不全、非代償性肝硬変、先天性代謝疾患、先天性肝・胆道疾患、Budd-Chiari症候群などです。肝細胞癌がある方でも、大きさや個数によっては移植の対象となり得ます。
一方で、移植ができない状態もあります。高齢や悪性腫瘍などです。年齢に関する厳密な基準はありませんが、65歳以下の患者さんを対象とすることが多いです。肝移植手術は大手術で術後の回復にも時間がかかるので、それに耐えうる体力が必要だからです。肝細胞癌以外の進行癌がある場合も移植はできません。これは、移植手術後に癌が進行・再発する可能性が非常に高いからです。
「肝移植ができるかどうか」や「肝移植をした方が良いのかどうか」の判断は難しいこともありますのでまずはご相談ください。
肝移植を受けるためには、肝臓を提供する人(ドナー)が必要です。ドナーは大きく分けて2通りあります。脳死ドナーと生体ドナーです。
脳死とは、全脳の機能が停止して、元には戻らない状態をいいます。脳死になると、人工呼吸器をつけていても数日後には心臓が停止します(心停止までに長期間を要する例も報告されています)。脳死になってしまったドナーの方から臓器を移植するのが脳死移植です。日本では年間70~90例の脳死肝移植が行われています。
生体ドナーになれる人は、レシピエントの親族で、自発的に臓器提供の意思を示した人です。肝臓の一部を移植のために切除するということは、健康体であるドナーにとって医学的肉体上の利点はなく、手術に伴う危険性が生じます。しかしながら、「レシピエントに助かって欲しい」という気持ちから、ドナーになりたいという思いがある場合にはドナーになれるかどうかの検査をします。
日本では年間2,000人ほどの患者さんが肝移植を必要とする病態に見舞われていると推定されます。そのような中で、脳死ドナー数が少ないため生体ドナーからの移植が多いというのが現状です。
肝移植の手術は大手術です。レシピエントの肝臓をまず全摘します。そして新しい肝臓を移植します。肝臓を巡る血液の出口である「肝静脈」、肝臓に入る血液が通る「門脈」と「動脈」、肝臓から分泌される胆汁の通り道である「胆管」をそれぞれ吻合します。手術時間は10時間以上、場合によっては20時間に及ぶこともあります。
手術後の入院期間は非常に順調な場合で1か月です。しかしながら、合併症が起きる可能性が高く、入院期間が3か月以上になることもしばしばあります、また、退院できずに亡くなる確率が約10%と非常に危険な手術でもあります。
危険な手術とは言いましたが、移植をしなかった場合と比べれば長期的な予後は劇的に改善します。具体的には、移植して5年後に生きている確率は約80%です。また、肝臓が悪くなっているために出ている症状(黄疸・腹水・むくみ・かゆみ・だるさ等)が改善するので、生活の質が良くなります。
慶應義塾大学病院では、1995年から2019年までに300人以上の患者さんに肝移植を行ってきました。全国集計と比較しても良好な術後成績を達成しております。(1年生存率 88.6%、5年生存率 83.1%、10年生存率 81.1%)
外科の他、内科、小児科、麻酔科、集中治療部、感染制御部、リハビリテーション科、看護部、薬剤部、輸血・細胞療法センター、血液浄化・透析センター、移植コーディネーターなど多くの診療科および関連部門と連携し、移植に関わる様々な問題に対処しています。
肝臓移植は専門の施設でしか受けることができない医療です.また,肝臓移植が適切かどうかの判断が難しい場合も多くあります.気になることがありましたら,ぜひご連絡をください。
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