「肝臓がん、本当にベストの治療法を受けられていますか?」
肝臓がんは再発を起こしやすいがんのひとつです。かかりつけの病院で一度外科的治療を受けた患者さんは外科の先生の外来を通い続けることになるため、その後の治療も外科的治療にこだわってしまう傾向にあります。しかし肝臓がんは後述のとおり、実にさまざまな治療法が開発されており、患者さんの状態によって適切な治療法が異なっています。
一方、私たちのチームの最大の特徴は、患者さんの治療を検討する際に毎回多くの専門科の医師たち(肝胆膵内科、放射線科、腫瘍内科など)と十分な話し合いを行っていることにあります。これにより、患者さんにとってそのときそのときの最適な治療を改めて模索していくことができるため、肝臓がんにとって真にベストの治療選択をしていくことが可能となっているのです。
目 次
1. | そもそも肝臓がん(肝細胞がん)とはなんですか? |
2. | どのような検査をするのでしょうか? |
3. | 肝細胞がんと診断されたら? |
4. | 肝細胞がんの治療は具体的にはどうするのでしょうか? |
肝臓がんとは、肝臓にできるがんのことを言いますが、これは 肝臓そのものからできてくる原発性肝がんと、他の臓器(胃や大腸など)から肝臓に転移してきた転移性肝がん に大きく分けられます。
さらに、原発性肝がんはその由来する細胞によって、肝細胞がん、胆管細胞がん、その他のものに分けることができますが、これらのなかで肝細胞がんの占める割合が95%と最も多いため、一般的に肝臓がんというと肝細胞がんのことを指します。
肝細胞がんの検査としては、血液データ測定(腫瘍マーカー)、超音波検査、CT検査、MRI検査、血管造影検査などを行います。各種検査はそれぞれ長所と短所がありますが、このようなあらゆるモダリティを駆使することによって的確に診断することができ、さらには一般的に見逃されやすいとされる早期の肝細胞がんや微小な病変などを漏らさずチェックすることができます。
また、肝細胞がんを治療するためには「がんである」という診断はもちろんのこと、肝臓の機能や予備力、さらにがんであった場合に個数や広がり具合などを総合的に確認して治療方針を立てる必要があり、このようにさまざまな検査を組み合わせて行うことでそれが可能となるのです。
肝細胞がんの治療法は多岐にわたりますが、腫瘍の状態と肝臓(患者さん)の状態を天秤にかけながら患者さん個々人に合った適切な治療を選択していきます。
まずは肝障害度(表参照)、腫瘍の数、腫瘍の大きさなどを評価して方針を定めます。肝障害度とは、腹水の有無、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、ICG 15分値(ICGという緑色の試薬の排泄試験)、プロトロンビン時間(血液の固まる力)から肝臓の障害度をA、B、Cの3段階に分類したものです。肝硬変の重症度判定基準としてはChild-Pugh分類もよく用いられます(表参照)。
これらの肝障害度や肝硬変の程度が調べられたら、それをもとに次項で述べるたくさんの治療法の中から、患者さんの状態に合わせた治療方針を選択します。
当院における肝細胞がん治療に対する具体的な取り組みは下記のようなものがあります。
当院の特色である腹腔鏡手術は従来の肝臓の開腹手術と比べて格段に低侵襲な手術になります。
肝細胞がんは再発を起こしやすいがんであり、生涯にわたり複数回の治療を要することがあります。その場しのぎの治療ではなく、将来も有利に治療が進められるような方針を選択します。(例:肝切除時になるべく残肝が多く残るような手術方針を追及するなど)
肝がんクラスターで各専門家の視点から意見を交わし、各症例ごとに最善の治療方針を編み出していきます。(例:腫瘍が肝臓の左右両葉にあっても、片方を手術で切除し、片方をアブレーションで焼く、などの外科・内科の治療を組み合わせるなど)
我々のグループでは肝臓移植も扱っており、肝臓の状態が悪い患者さんの治療にあたっている際も、肝臓移植をすることがベストであるタイミングを見逃すことなく、適切に対応することが可能です。
なんといっても外科・肝胆膵内科・腫瘍内科・放射線科などの各専門家が一同に会して治療方針を決めていく肝がんクラスターは我々の大きな特色であり、これにより前述のような取り組みを実現することができているのです。
具体的な治療方法については下記のようなものがあります。
がんを体から切り取ってしまうため、他の治療法に比べて確実な方法と言えます。ただし、肝臓は生命の維持に必要な臓器であり、胃や乳腺のように全部とってしまっても大丈夫なものではなく、また腎臓や甲状腺のように全部なくなっても機械(血液透析)や薬(甲状腺ホルモン)で機能を補えるといったものではないため、生命の維持に必要な分だけの肝臓は残さなければいけません。切り取る肝臓の大きさは、癌の位置、大きさや、癌が血管へ及んでいる程度などから決めますが、残る肝臓が生命の維持に充分ではなくなってしまう場合は手術の適応とはなりません。肝細胞癌の殆どは慢性肝炎、肝硬変といった肝臓機能障害を持った人にできるため、手術前に肝臓の機能(前述の肝障害度や肝硬変の程度)を詳しく調べることが重要になってきます。
特に、当科では 腹腔鏡を用いた肝切除 を積極的に行っています。一般的に腹腔鏡の手術は難しいとされていますが、さらに工夫を加えて解剖学的理解に則って肝切除を行うことにより、格段に安全かつ確実な手術が可能となります。当院はこのような精緻な腹腔鏡下手術を施行できる数少ない病院の一つです。
マイクロ波凝固療法(MCT)、ラジオ波焼灼(RFA)、経皮的エタノール注入療法(PEIT)などがあります。原理は異なりますが、いずれも経皮的にあるいは開腹下に肝臓に針を刺して腫瘍とその周囲のみを壊死させる方法です。残肝に対する影響が小さいため、肝予備能が低くても施行可能です。一度に広範囲(3~5cm)を焼灼できるRFAが近年急速に広まりつつあり、当科でも積極的に行っています。
また当科では、凍結融解壊死療法(cryoablation)を全国で初めて導入し、通常のアブレーションで対応できない患者さんに行っています。複数の凍結針を同時に使用することで大型の腫瘍を壊死させられる(約10cmまで)、治療範囲(アイスボール)が術中に超音波で確認できること、体表に近い腫瘍に対しても痛みが少なくできる等、さまざまなメリットがあります。ただし、この治療は現在でも非常に限られた施設のみで導入されている治療法で、厚労省の保険認定をまだ受けていないため、原則として費用はすべて自費診療となります。
当科では、上記の各種アブレーション治療を、主要な血管・胆管との位置関係、他臓器との位置関係、肝内での位置(肝表面に突出している等)を考え合わせベストのアプローチ法で行うよう工夫をしています。アプローチ法としては、経皮的治療、内視鏡下治療(腹腔鏡下または胸腔鏡下)、小開腹下治療などがあります。
手術の適応にならない患者さん(肝予備能が悪い、腫瘍が広範囲に散らばっている、等)に行われます。腫瘍を栄養する肝動脈にカテーテルを挿入し、塞栓物質や抗癌剤を流す方法です。腫瘍細胞を栄養するのは動脈のみですが、正常細胞は動脈と門脈の双方から栄養されるため、TAEによって腫瘍細胞のみを攻撃することができるという原理に基づいています。門脈が閉塞している場合などは正常細胞も影響を受けるため基本的に適応外となります。
具体的な方法は血管造影検査と同じで、レントゲン室で局所麻酔下に、脚のつけ根の動脈(大腿動脈)からカテーテルを入れて行います。現在用いているカテーテルは、細くてやわらかいため、治療の合併症はほとんどありません。また、肝臓の奥へとカテーテルを進め、癌とその周囲の狭い肝実質領域だけを塞栓する治療も可能で、治療後の肝機能の低下も軽度ですみます。当院では、専門の放射線医師が行い治療時間は30分から1時間程度です。治療中や後に上腹部痛や発熱(39度近いこともあります)がみられることがありますが、時間とともに軽快し、鎮痛剤や解熱剤を使うことでコントロールは容易です。
切除不能な進行肝細胞がんに対する有効な抗癌剤としてソラフェニブ、レンバチニブが挙げられ、慎重に適応を判断しているほか、日本独自の治療である 肝動脈内注入療法(肝臓全体に薬剤を行きわたらせる点がTAEと異なります)も用いています。
肝細胞がんに対する肝移植が2004年1月より保険適応となりました。肝癌が「3 cm、3個以内」、または「5 cm、単発」のいわゆるミラノ基準適合例に保険が適用されています。詳しくは、当科移植ページをご参照ください。
これまでに述べてきたように肝細胞がんは患者さんの状態、癌の状態によって実に多くの治療の選択肢がある病気です。そのような中、我々肝胆膵外科グループは放射線診断科・放射線治療科・肝臓内科・臨床腫瘍内科らと密に連携をとって患者さん個々人に沿ったベストの治療法を提供しております。(「肝がんクラスター」をご参照ください)
「外科に受診したから手術」というわけではありません。各診療科が窓口となって患者さんにとってより良い道を必ずや探し出しますので、まずはお気軽にご相談ください。
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