肝臓の病気と治療
転移性肝がん


「いかに手術に持ち込むかがポイントとなり、オプション(手術の工夫)の多さが決め手となります。」


目 次

1.転移性肝がんとは?
2.大腸がん肝転移とは?
3.どのような検査をするのでしょうか?
4.大腸がん肝転移の治療は具体的にはどうするのでしょうか?


1.転移性肝がんとは?

転移性肝がんとは、肝臓以外の臓器にできたがんが主に血液の流れに乗って肝臓にがんの塊をつくることです。特徴として、進行したがんに起こり、肝臓に多発することや再発することが多いとされております。様々ながんが原因となることが知られていますが、最も頻度が高いのは大腸がんです。大腸がんの肝転移の場合には、積極的な治療によりがんを取り除くことができれば、生命予後の改善が見込まれます。

最も代表的な転移性肝がんは大腸がん肝転移ですが、その他にも胃がん、膵臓がん、腎がん、胆道がん、乳がん、そしてGIST(消化管間質腫瘍)や肉腫という特殊ながんなどまで様々です。これらは大腸がんに比べると頻度は低く、ごく限られた条件の中で手術が可能となります。手術の適応は大変難しく、患者さんの個々の状態から総合的な判断が必要となります。当科では他領域の診療科と協力して、一つの診療科の枠に留まらずに、手術以外の選択肢も含む横断的な治療を提供できることが大きな特徴です。治療をご希望、ご検討されている方は、是非お気軽にご相談ください。


2.大腸がん肝転移とは?

大腸がん肝転移は、転移性肝がんのうち最も頻度が多く、外科治療の機会も多いとされております。進行した大腸がん(StageⅣ)にみられ、大腸がんと診断された患者さんの約10%、大腸がん手術後の患者さんの約7%にみられます。また、診断されてから5年後の生存率は13%、治療後5年の時点での生存率は30~40%程度とされております。

症状としては、肝腫瘍のみでは腫瘍自体がよほど大きくならない限り、通常は自覚症状として現れてきません。


3.どのような検査をするのでしょうか?

血液検査ではCEAとCA19-9とよばれる腫瘍マーカーが測定されることが一般的です。腫瘍マーカーは腫瘍が作り出しているタンパク質であるため、腫瘍が大きくなればその分だけ腫瘍マーカーも高値となります。しかし、すべてのがんで腫瘍マーカーが高値であるとも限らず、逆に腫瘍マーカーが高値というだけではがんの診断にはなりません。定期的に測定することで値の上昇の有無を見極めることが重要です。

画像検査としては、超音波検査、CT検査、MRI検査、そしてPET-CT検査を行うことが一般的です。特に造影剤を用いたCT検査やMRI検査は、診断にとどまらず、治療方針を決定する上でも大変重要な検査となります。後述するナビゲーション手術もこれらの画像検査を基盤としております。


4.大腸がん肝転移の治療は具体的にはどうするのでしょうか?

■われわれの特徴:オプションがたくさんある!

◇ 手術方法の工夫=適応を拡げる工夫
・シミュレーション手術
・ナビゲーション手術
・血管合併切除・再建
・腹腔鏡手術
◇ その他
・横断的治療(放射線治療、化学療法、緩和医療など)など

手術が根治性を高めるには最善の治療方法です。

手術で腫瘍を取り除くことができれば根治できる可能性があります。手術の方法は一通りとは限りません。何通りも考えられて、その中から最善の方法を選択することが肝臓外科医には求められています。しかしながら、手術で根治の可能性が十分にある患者さんが手術の適応がないとされている場合も多いのが現状です。

■他院で手術できないとされる一般的な理由

腫瘍の場所・腫瘍の大きさ・腫瘍の個数・患者さんの肝機能や全身状態・複数回手術 など


図1. 転移性肝がん|肝臓の病気

左上図は転移性肝がんの手術前のCTですが、腫瘍(黄色矢印)は血管に近いものの肝臓表面近くに位置しており、比較的容易に手術が可能と考えられます。3D構築像(右上図)でみても肝臓表面の小さな腫瘍であることがわかります。実際の手術では、腫瘍を含めた部分切除という術式が選択されました。

図2. 転移性肝がん|肝臓の病気

上図も転移性肝がんの手術前のCTですが、黄色の丸で囲ってある部位に腫瘍が存在します。この症例では肝臓の左右に腫瘍が多発していました。

図3. 転移性肝がん|肝臓の病気

このCT画像をもとに3D構成をした画像が上図となります。腫瘍(ピンクや緑の球体で表示)は肝臓の右側(図では左側)に多く位置しておりますが、肝臓の左側(図では右側)や肝臓の深部にも腫瘍が存在していることがおわかりになると思います。このような症例では、施設によっては手術が困難とされることもあるかもしれませんが、手術の方法を工夫することで十分に取りきることが可能とわれわれは考えます。

転移性肝がんの代表的な治療法は、手術、全身化学療法(抗がん剤)、肝動注療法(抗がん剤)、熱凝固療法(焼灼術/しょうしゃくじゅつ)に大きく分類されますが、手術による治療成績が一番よいとされております。

当科では、各診療科と密な連携を図ることで患者さん個々の状態に合わせたオーダーメイド医療を提供しております。手術はもちろん、抗がん剤、熱凝固療法などの局所療法を組み合わせることで、患者さんにとって最善の治療を提供できるよう常に努力と挑戦を行っております。特に手術においては、これまで手術の適応外とされていた患者さんでも様々な技術・治療法を駆使することで、がんを取りきることが可能となるケースが多く、このような治療を提供することが当科の最大の特色であるといえます。手術が困難とされた患者さんにいかに手術(治療)を提供できるか、をわれわれのオプションを最大限に使用して考案しております。



(a)手術

手術が可能かどうかは患者さんの状態にもよりますが、肝臓以外の転移の有無、がんの場所、どれだけ正常な肝臓を残せるかにより決まります。肝臓は手術後に再生することが知られておりますが、生命を維持するのに最低限の肝臓が残されなければ、手術を行うことはできません。取り除くことができるか否かには統一された明確な基準はなく、施設毎に異なっているのが現状です。

・ナビゲーション手術

当科の特徴の一つとして、手術前に画像解析ソフトによる手術シミュレーションを積極的に行っております。手術の戦略や手順について十分に検討を行うと同時に、実際の手術の際にシミュレーション画像を参考にしたナビゲーション手術を取り入れることで、安全性を担保された質の高い手術が可能となっております。
当科では系統的(解剖学的)肝切除とよばれる腫瘍学的に治療効果の高い術式を選択するケースが多く、ナビゲーション手術が多いに効果を発揮しております。また、これらの技術により多発肝転移のため大量の肝臓を切除しなければならず、従来ならば手術が困難とされていた患者さんでも、全く新しい切り口で一定量の肝臓を温存し、手術が可能となる場合があります。

・腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術も当科の特色の一つです。当科ではいち早く腹腔鏡下手術を導入し、2013年には計51例の腹腔鏡下肝切除(肝がんなど他疾患を含みます)を行い、うち大腸がん肝転移に対しては15例の腹腔鏡下手術を行いました。現在では可能な限り腹腔鏡を用いた、低侵襲でかつ安全な手術を実践しております。
腹腔鏡下手術とは、従来から行われているおなかを大きく切る開腹手術とは異なり、複数の小さな穴をおなかに開け、小さなカメラでおなかの中の映像をモニターに映し、鉗子とよばれるマジックハンドのような機器を用いて手術を行う方法です。おなかの傷が小さく、からだへの負担も少ないため、早期の退院・社会復帰が可能となります。現在では、技術の進歩と手術機器の発達により、開腹手術と同等に手術を行うことが可能となってきており、手術後の再発の有無などの長期成績も同等とする報告も多く見受けられます。
大腸がん肝転移ではその性質上、複数回の治療を行うことがあります。再手術の場合には、おなかの中に癒着とよばれる現象(おなかの壁や臓器がべったりとくっつき一見しただけでは解剖を把握することが困難な状況)のため、一般的には腹腔鏡手術が技術面から困難とされております。当科ではこれまでに培った経験と技術、定型化された手術体系から、このような高難度症例に対しても可能な限り腹腔鏡下手術の実践を検討しております。

「腹腔鏡下肝切除」について




(b)手術+熱凝固療法(ラジオ波焼灼システムを用いた腹腔鏡補助下肝切除術)

ラジオ波による熱変性が肝切離時の出血量軽減に効果がみられることから、ラジオ波焼灼術を併用した腹腔鏡補助下肝切除術が考案されました。厚生労働省が先進医療として定めている治療法であり、当院はこの先進医療の認定施設の一つに指定されております。当院ではこれまでに9名の患者さんに積極的に行っており、良好な成績を得ております。(2014年5月現在、肝細胞がん手術例を含む)
※関連URL: http://www.hosp.keio.ac.jp/about/yakuwari/senshin/senshin06.html




(c)全身化学療法(抗がん剤)

「分子標的治療薬」とよばれる新たに開発された抗がん剤などの進歩により治療効果が高まってきております。当初は手術不可能とされた場合でも、抗がん剤が効果を発揮すれば、手術が可能となることがあります。また、手術後の再発率が高いため、手術後には十分な抗がん剤投与を行うことで予防に努めております。




(d)集学的治療

肝臓内科・臨床腫瘍内科・放射線科やその他の診療科と密に連携することで、患者さんのその時々の状態に合わせた治療を提供しております。