臓器移植

腹腔鏡下肝切除


2016年より健康保険で治療できる最新外科手術

腹腔鏡手術とは、お腹(主におへその穴)に5-12mm大の穴をあけ、カメラ(腹腔鏡)をお腹の中に入れモニターを通じて観察しながら、肝臓の病変を切り取る手術法です。腹腔鏡での胆嚢摘出が最も古くから普及し全国的に行われておりますが、現在では食道、胃、大腸に対しても腹腔鏡手術が行われています。腹腔鏡下肝切除を導入している施設は未だ限られているものの、全国的にも件数が増加しています。

比較的かんたんな肝臓手術(肝部分切除、肝外側区域切除)に対して、2010年から腹腔鏡下肝切除が健康保険の適応となり、その後2016年から、特殊な肝切除を除くほぼすべての肝切除術に対して、健康保険での治療ができるようになりました。当院はこれまで多くの開腹肝切除・腹腔鏡手術の経験から腹腔鏡下肝切除の施設基準認定施設として認められており、腹腔鏡下肝切除術を多数実施しています。



■腹腔鏡下肝切除の特徴


高度な技術で患者さんの体に優しい治療

Photo_腹腔鏡下肝切除術_No.1 ≪腹腔鏡手術の利点≫

・体の傷が小さい
・出欠量が少ない
・術後の痛みが少ない
・退院までの日数が短い
・社会復帰が早い

≪腹腔鏡手術の欠点≫

・手術時間は比較的長い
・高い技術を要する
(術者は肝胆膵外科専門医+内視鏡外科認定医が理想)
・より複雑な手術には不向きなことがある


特に肝臓の腹腔鏡手術は、他の臓器に比べても利点が多いといえます。従来の開腹下の肝切除といえば、通常体に大きな傷(傷の長さが30cm以上になることも多い)を負う手術が一般的でした。肝臓が体の肋骨に囲まれ隠れているために、手術中の視野の確保が難しく、時には小さな病変であっても大きく開腹する必要がありました。そのため、術後の痛みも強く、患者さんはもちろん私ども医師の悩みでした。

腹腔鏡手術は小さい傷ながらも、カメラ(腹腔鏡)を自在に操ることにより通常の開腹手術より拡大した見やすい視野を得られる利点があります。拡大視野により緻密な手技が可能で、結果的に出血量を抑える効果があります。なおかつ、癌の治療効果に関しても開腹手術と同等であることが世界的にも報告されています。一方、丁寧な処置が必要なことから手術時間が長くなるのが欠点です。しかし手術は閉鎖された体腔内で行っているために大気による内臓負担は最小限になるため、術後の内臓の機能回復は手術時間が長いにもかかわらず開腹よりも速やかです。そして一番の欠点は外科医に高度な技術が求められることです。肝臓を知り尽くし腹腔鏡に精通した肝臓のエキスパートが行うべき手術と考えます。



■当院の取り組み


国内屈指の経験数を活かして安心安全な治療を

当院は1995年に日本で2番目に腹腔鏡肝切除を導入して以来、約300例の腹腔鏡下肝切除を行ってまいりました。2011年までは肝切除の10-15%に腹腔鏡手術を施行しておりましたが、2012年には約25%、2016年には約60%と腹腔鏡手術に移行しつつあります。対象疾患は、肝癌(肝細胞癌、肝内胆管癌)、転移性肝癌(大腸癌の肝転移、GIST:消化管間質腫瘍の肝転移、肉腫の肝転移)、良性肝腫瘍、肝嚢胞など多岐に渡ります。

さらに当科では、腹腔鏡下肝切除をより安全かつ治療効果を高めるために次に挙げる取り組みをしています。

1. 術前シミュレーション


肝臓は動脈、静脈、門脈、胆管と多くの脈管が複雑に走行しており、その脈管の解剖は一人ひとり異なります。肝臓の手術は、この肝臓の立体解剖を詳細に把握しなければ安全な手術は出来ません。

CT検査で得られた画像を用いて、肝臓の立体解剖を構築して手術に臨んでいます。肝臓の形、門脈、静脈を3次元に構築することで、個々の肝臓を忠実に再現することができます。これを利用することで、手術をどのように進めていくかを事前にシュミレーションし、より安全な肝切除を行うことが可能になります。

Photo_腹腔鏡下肝切除術_No.2

2. 解剖学的切除


「解剖学的切除」とは、肝臓を血流の分布に沿って切除する方法のことで、対照的に非解剖学的切除とは、病変が含まれた肝臓をくり抜くように切除する方法を指しています。

肝臓は樹が枝を生やすように、門脈、胆管、動脈が走行しております。根元の分岐部の血管を切離し、そこから先の血流を途絶えさせると、一部肝臓が変色します。その変色域に沿って肝臓を切除することにより、より出血が少なく、かつ根治性の高い治療が期待できます。肝切除の中でもより高い技術を要する「解剖学的切除」に対する腹腔鏡下手術は当科より国内外に向けて広く評価を受けており、国内・国外から多くの外科医が見学・研修に来ています。

3. より大きな肝切除(右葉切除、左葉切除)


慶應病院では「区域切除」「葉切除」などと呼ばれる、肝臓の大きな切除に対しても多くの経験をベースに行っています。慶応病院では2010年より高度先進医療として開始しています。2016年4月からは健康保険による治療が可能となってからはより多くの患者様にこの治療を提供できるようになりました。しかしすべての患者さんにとって腹腔鏡手術が適切ではありません。大学病院である当院ではより複雑な病態の患者様も多く来院され、開腹手術がより適切と判断することも多々あります。各患者様に合わせた手術方法の選択が最も重要です。

4. 安全・安心の医療への対応


どの病院、どの外科医も、安全への最大限の対応を怠っていないと考えます。しかしこういった最新治療には特に、その安全・安心をどのように明確化・維持するかも重要な課題と考えます。我々の施設では 国内規模の臨床データベース(NCD:HP http://www.ncd.or.jp/)および日本肝臓内視鏡研究会(http://lapliver.jp/)の前向き症例登録制度で第3者にも透明性のある治療体制を整えております。また当院では腹腔鏡肝切除の術者基準を定めており、一定の技術講習および基準の達成を最低条件とし、さらに難易度の高い手術においては日本肝胆膵外科高度技能専門医および日本内視鏡外科学会技術認定医の資格を条件とし技術経験を担保しています。幸い慶応病院のこれまでの腹腔鏡下肝切除では手術に関わる合併症による死亡事例はありません。

腹腔鏡下肝切除はもちろん、肝臓についてご不明な点がございましたら、遠慮なく医師へご相談ください。

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