目 次
| 1. | 膵臓ってどんな臓器? |
| 2. | どうして膵がんはこわい病気なの? |
| 3. | 膵腫瘍の治療はどんなの? |
| 4. | 膵臓の手術は大変なの? |
| 5. | 低侵襲手術とはナニ? |
| 6. | 慶應病院での膵がんの取り組み |
膵臓は、おなかの奥深く、胃のうしろ側にある細長い臓器で、長さは15~20cmほどです。膵臓は膵頭部、膵体部、膵尾部の3つの部分に分かれており、手術を選択した場合、疾患や腫瘍の場所によって術式や体への負担が大きく変わります。
膵臓には次の2つの重要な役割があります。
●外分泌機能(消化を助ける働き)
膵臓は膵液という消化酵素を作り、脂肪やたんぱく質を分解して消化吸収を助けます。膵臓で産生された膵液は膵管を通り十二指腸に流れ、消化を行っています。
●内分泌機能(血糖を調整する働き)
膵臓の中のランゲルハンス島からインスリンやグルカゴンが分泌され、血液の流れにのって全身に回り、血糖値を一定に保ちます。この働きが弱まると糖尿病につながります。
治療すべき膵臓にできる腫瘍の内、膵がんが80%を占め、その他、膵嚢胞性疾患(IPMN、MCN、SCN、SPN)や膵神経内分泌腫瘍(PNEN)などがあります。画像的に膵腫瘍が疑われても正確な診断に至ることが難しいのですが、悪性度が疾患によって大きく異なるため、治療法選択に慎重にならざるを得ません。慶應義塾大学病院の特徴として胆道内視鏡を専門とする胆膵内科が積極的にEUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺)を行っており、また、放射線診断科の正確な画像読影、そして病理診断科の高度な診断力が融合し、正確な術前診断に至ることが当院の特徴です。
膵がんは日本で罹患率第7位、死亡率第3位のがんです。
悪性度が高い理由は次の通りです。
診断時にはすでに手術ができない進行がんであることが多く、手術できるのは全体の2~3割程度です。手術をしても再発することが多く、長期生存のためにはさらなる治療の工夫が必要と言えます。
予後の悪い膵がんに対する治療は手術、化学療法、放射線療法があり、根治治療となるのは手術のみでありますが、それだけでは術後再発することも多く十分ではありません。そこで、それらを組み合わせる集学的治療により予後改善効果があることがわかってきました。中でも診断時切除不能である進行膵がんに対して、化学療法や化学放射線療法でがんが小さくなり、血管や周囲への浸潤が改善すれば、手術が可能になる場合があります。これを「Conversion Surgery(コンバージョン・サージェリー)」と呼び、根治に至る症例もあることから、当院ではConversion Surgeryに積極的に取り組んでいます。他院で手術できないと言われた患者様も当院で手術できる場合もありますので、お気軽にお問い合わせください。
手術できる悪性腫瘍に対しては、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術などの低侵襲手術、また術式に対しては、核出術や膵中央切除術などの機能温存手術も積極的に行っております。また、膵神経内分泌腫瘍(PNEN)の中で、悪性度の高い腫瘍や遠隔転移を伴う腫瘍に対しては手術・薬物療法・PRRT(ペプチド受容体放射性核種療法)を組み合わせております。PRRT治療は限られた施設のみでしか行えないのですが、当院では治療可能なので、スムーズに治療選択できます。
膵がんの手術には膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、膵全摘術があり、術式ごとに患者さんの負担が異なります。膵頭十二指腸切除術や膵全摘術では食べ物の通り道や胆汁や膵液の消化液の通り道を切るため、それらの通り道を作り直す再建が必要になり、大がかりな手術になります。また、膵臓のすぐそばに重要な血管が密集しているため、腫瘍がその血管に接触または浸潤すれば、切除不能になるか、または高度な技術を要する血行再建が必要になることもあります。よって膵がんの治療を受けるためには、手術においてどのような術式をも安全に行える施設を選択することが大切であると考えています。
当院では血行再建を伴う拡大手術においては血管外科と連携し、高度な再建技術で合併症を低減させています。それでも高度侵襲手術である膵切除術後は様々な合併症が起こりえます。その時、当院では多くの診療科に多くの専門家がいるため、他部門の専門家から適切なサポートを得ることができ、仮に重篤な合併症が起きても、それを乗り越える能力を有している施設と言えます。前述の通り、他院で切除不能と言われた場合も当院ではConversion Surgeryを積極的に考えるのはこれらの施設としての強みがあるからです。つまり、高度な手術技術や術後合併症に対するバックアップ体制が充実しているため、手術適応は広いと言えます。
低侵襲手術とは、からだに負担(侵襲)の少ない患者さんに優しい手術のことです。 その中心を担うのが腹腔鏡下手術やロボット支援下手術などの内視鏡手術です。開腹術と比較して、傷が小さいのみならず、腹腔内臓器の大気への暴露時間が著明に短縮することから、患者さんの体の負担は軽減され、術後の回復が早い傾向があることから、当院では積極的に低侵襲手術を行っており、現在6割の膵切除症例が低侵襲手術となっております(図1)。開腹手術でしかできない手技もありますが、慶應義塾大学病院では十分な手術支援ロボットを有しているため、低侵襲手術の適応となる患者様には適切な術式選択を行えます。
2012年より腹腔鏡下膵切除術が開始となり、2021年よりロボット支援下膵切除術が開始となりました。同じ低侵襲手術であるものの、手術支援ロボットを使用することで正確性かつ安定性が増し、安全性向上に寄与すると考えており、現在9割以上の症例でロボット支援下膵切除術を行っております。当科ではプロクターと言われるロボット膵切除の指導資格を有する意思が複数在籍しており、当院でロボット支援下手術を行うにあたり、ハードもソフトも充実していると考えます。
我々、慶應病院の強みは「全方位戦略」。すべての診療科に専門性の高いエキスパートが集まっているからこそ、併存疾患のある患者様に対しても、領域横断的な技術を要する高難度膵切除においても、安全な外科的治療を提供できます。これに加え、化学療法と放射線治療を手術に織り交ぜる集学的治療にあたっては、専門となる科と密な連携を取り、エビデンスに基づきながら、ときにはそれを超える最適な治療を提供し、新たなエビデンスを作っていく、これが慶應病院の強み「全方位戦略」です。そして、慶應には歴史があります。1976年より門脈合併膵頭十二指腸切除術などの拡大手術に着手し、1985年には術中照射、1986年には術後門注化学療法を開始するなど、世界に新たなエビデンスを発信してきました。このような新規治療法開発の歴史を礎として、「全方位戦略」を実践しております。胆膵内視鏡診断を専門とする胆膵内科、化学療法を専門とする腫瘍内科との連携は強固なものであり、毎週開催される「膵腫瘍ミーティング」で症例ごとに詳細なディスカッションを行い、診断から治療までシームレスに行い、患者さんそれぞれに合わせた至適タイミングで至適な治療を施すことを目指し、日々臨床を行っております。
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