胆管がん(胆道がん)の治療を受ける前に知っておきたいこと
肝門部胆管癌


注:このHPでは「肝門部領域胆管がん」の外科治療について患者さんやその家族にできるだけ理解していただけるように噛み砕いて説明しています。一般的な知識としてお読みください。実際の病院内で私達が説明している内容に近いのですが、一部内容が簡素化されていますことをご了承ください。実際の患者様あるいはご家族で相談を希望される場合はセカンドオピニオン外来または一般診療外来にお問い合わせください。

目 次

1.肝門部(領域)胆管がん ってなに?
2.どうして手術が難しいの?
3.どうして体に負担が大きいの?
4.がんの手術で最も手術死亡率が高い
5.手術不能と診断されることが多い理由は?:病院によって治療に差がでやすい
6.治療に「慣れ」が必要
7.手術以外の治療も組み合わせたい
8.慶應病院での肝門部領域胆管がん治療;難治がんにベストな治療を

1.肝門部(領域)胆管がんってなに?

胆管がん(胆道がん)は、胆汁の流れ道である胆管(胆道)に発生するがんのことで、さらに細かく「肝内胆管がん」「肝門部胆管がん」「遠位胆管がん」「胆嚢がん」「十二指腸乳頭部がん」に分類できます(図1)。

図1.胆管(胆道)がんの種類|肝門部胆管がん

いずれの胆管がんも根本的に治癒(根治)するためには今も昔も必ず「手術」をうけて病巣を摘出する必要があり、同じ治療効果を得られる他の治療はありません。ですから胆管がんには安全で確実な「手術」を行うことがとても重要になります。

その胆管がんのなかでも病巣が「肝門部(かんもんぶ)」と言われる肝臓の血管の出入り口(門)にまで迫っていることがあり、その場合は手術の内容が急に「大きく」なりつまり手術がとても難しく、また患者さんへの体の負担が大きくなります。このような胆管がんを最近では「肝門部領域胆管がん」と呼ぶようになりました(図2)。

図2.肝門部領域胆管がんの例|肝門部胆管がん

2.どうして手術が難しいの?

「肝門部」という部位は肝臓の根幹だからです。肝臓の骨格は大きな「木」に近い構造(幹枝が血管、葉が肝臓の細胞)なのですが、肝門部は木の幹に相当します。その部分に腫瘍ができるため木を生かしながらがんを切除することが技術的に難しい理由なのです。手術は朝から開始してどんなに早く終わっても夕方までかかります。また血管を顕微鏡やルーペでつなぎ直すような手術を必要とするときは手術終了が深夜12時を超えることも多々あります。


3.どうして体に負担が大きいの?

肝臓という生きるためになくてはならない臓器を切除するからです。元来臓器に不要な臓器はありません。ですが、がんの治療で臓器を切除しなくてはならないときに切除しても生命に直接関わらない臓器と、切除したら生命を維持できない臓器(重要臓器と言います)に区別できます。重要臓器には肺や腎臓など最初から2つの臓器がある場合もありますし、腎臓に対する人工透析のように、機能を代用できる医療がありますのでその場合は体への負担を軽減できますが。一方、肝臓は一つでありさらに透析のような治療法はありません。また肝門部領域胆管がんの手術では多くの場合肝臓を半分以上、場合によっては2/3程度切除する必要があるため、手術後に「肝不全」という肝臓のエンストが起こる可能性があるのです(図3)。それが大きな負担の原因です。

図3.もっとも一般的な切除範囲-右肝切除(右2区域切除)|肝門部胆管がん

4.がんの手術で最も手術死亡率が高い

多くのがんで唯一の完治が望める治療法が「手術」ですが、多かれ少なかれ体に負担をかけるためときには手術をきっかけに体調を崩すことがあるのがデメリットです。手術をきっかけに起きる症状は病態を「合併症」と言いますが、多くの合併症は乗り越えられるもののそれでも乗り越えられない場合は最終的に命を奪うこともあります。数多くのがんの手術のなかでこの「肝門部領域胆管がん」に対する手術は手術関連死亡率が最悪です。手術をきっかけとした死亡を調査するときに良く用いられるのが「術後90日以内の死亡率」ですが、世界では15~20%、日本でも2011年の全国データで11%程度と発表されています。これは胃がん手術(約1%)、大腸がん手術(1%弱)、膵臓がん手術(約2%)、食道がん手術(約2%)(*1)にくらべても明らかに高い値であることがわかると思います。


5.手術不能と診断されることが多い理由は?
- 病院によって治療に差がでやすい

大きく3つあります。 ①病気が見つかったときにすでに病期が進行し切除しきれないことが多い:早期発見がとてもむずかしい病気です。黄疸で見つかることが多いのですが、胆管が完全につまるまで黄疸症状が出現しないので早期には気づきません。手術で取り切れる範囲を超えた場合は手術不能とされ、根治を諦めなくてはならなくなります。 ②手術の技術的な理由:すでに説明したように非常に難しい手術なので病院によって手術可能な腫瘍の範囲や手術術式の選択枝が大きく異なります。他のがんの手術よりその差が大きいとされています。 ③患者さんに対する手術死亡リスクの回避のため:手術が難しく、体への負担が大きいので治療する先生としては手術適応範囲を制限することがあります。患者さんへの最悪の事態(手術死亡)をできるだけ回避するための医師(病院)の個々の判断なのですが、ときには患者さんの治療のチャンスを狭めるときもあります。どちらが正しい判断というより、患者さんと医療側の条件でそれぞれの患者さんにあわせた治療を選ぶべきことです。 特に②③の理由はほかのがんの手術にはあまりない、肝門部胆管がん手術の特徴です。


6.治療に「慣れ」が必要

このような手術の難しいがんですので各病院はこの手術にいかに「慣れている」かが大切になってきます。ですが肝門部胆管がんは患者さんの数がそれほど多くありません。国内データによると全国の肝門部胆管がん手術の数は1000~1200件/年程度と報告されています。これは胃癌(年間約5万件)、大腸癌(年間約4万件)とくらべると遥かに少ない手術数です。これまでの説明からお分かりになるように、この手術は多くの経験のある医師、医療チームでの実施が望ましいといえます。本邦では日本肝胆膵外科学会という専門家の集まる学会が認定した、肝臓・膵臓・胆道の難しい手術(高難度手術)を安全に多く施行している約250の施設(大学病院や地域の基幹病院:ハイボリュームセンター)があります。これらの施設で年間おおよそ700程度の肝門部手術が施行されていますが、それらの90日死亡率は約4~6%と前述の全国成績より改善の傾向が見られます(*2)。ただしハイボリュームセンターといっても年間平均手術数は計算上 約3件/年になります。大きな病院ですら「慣れない治療」であることも多いのです。


7.手術以外の治療も組み合わせたい

このように完治には「手術」が必ず必要な胆管がんですが、しかし手術で取り切れても必ずしもそれだけで完治しない(術後5年以内に再発する)患者さんが約半数いらっしゃいます。この現実が病気としてがんの怖いところですが、すこしでも再発する患者さんをへらすため、そして再発したとしてもその病気をできるだけコントロールするためにはいわゆる抗癌剤(薬物療法)と手術との組み合わせや再発治療も重要となってきます。元来胆管がんは薬物療法に選択枝が少なく、効果も限定的でしたが、これから数年で新規分子標的薬などが新しく加わる可能性があります。また同じ胆管がんでも患者さんによって「遺伝子異常」に違いがありその違いを把握することで病気の進行の予測や、腫瘍残存の可能性の把握、あるいは効果の期待できる薬物の選択などができるようになるでしょう。まだ保険診療ではないことも多いですが、日進月歩でありとくに難治がんの代表とされる胆管がんにとっては発展が大きく期待されるところです。


8.慶應病院での肝門部領域胆管がん治療
- 難治がんにベストな治療を

これまでご説明した胆管がんの現状の中、当院では、肝門部領域胆管がんの国内有数のハイボリュームセンターとしてベスト治療を提供するために最善を尽くしています。

具体的には、、、

#国内屈指の治療経験数

2013年より当グループにて191件の肝門部手術を施行しました(2020.12現在)。年平均約24例の手術を担当しており国内屈指です(図4)。

図4.当グループの肝門部胆管がん根治手術数推移|肝門部胆管がん

#がん手術と肝移植手術の統合

難しい手術の代表である肝門部手術と肝移植手術を一つのチームがともに手掛ける数少ない病院です。肝移植は年間20例程度実施しており、胆管がんと合わせて40~50の肝臓血管切除再建を行うことで難しい手術を毎週のように安全に施行しています(図5・6)。

図5.複雑な血管再建を駆使した胆管がん手術|肝門部胆管がん
図6.肝右葉と膵頭部、肝十二指腸靭帯を全切除した症例|肝門部胆管がん

#一人でも多くの患者様に根治を目指して

他の病院で手術できないとされた患者様をお引き受けすることが多いため、より大きな切除を必要とする患者様、手術や併存疾患をもった患者様の手術が多いのですが、我々ががんに対する最後の砦となるべくチーム一丸となり診療しています。総合大学病院なので、がん治療以外の各診療科エキスパートが大きな手術を受けた患者さんの術後の回復を力強くサポートします。心臓病などの重篤な持病をお持ちの患者さんを、がん専門病院からの依頼を受けて手術することも我々の使命です。

#手術関連死亡ゼロを目指して

これまでの慶應での手術後90日死亡率は0.8%でした。ときに大きな合併症が起きる手術ですが一人でも多くの患者様が自身で歩いて退院いただくことが我々の使命です。

#治験実施施設として少しでも治療選択の幅を

胆管がん治療にもいよいよ分子標的薬という新しい薬剤が導入される可能性がでてきました。これらの可能性のある治療を慶應病院では「治験」としてご提供する用意があります。さまざまな条件がありますので詳細は個別にご相談となります。



【参考文献】
(*1)Ann Gastroenterol Surg. 2018;2:37-54.
(*2)日本肝胆膵外科学会手術調査報告書2016

【図】
 日本消化器外科学会HPを元に本HPに併せて改変