臓器移植
肝移植


目 次

0.はじめに――肝移植を検討されるあなたへ
1.肝移植を理解する
1-1.肝移植とは
1-2.適応となる病気・状態
1-3.ドナーについて
2.治療のプロセス
2-1.診療の流れ
2-2.手術の実際
2-3.退院後の生活とフォローアップ
3.当院での肝移植
3-1.当院の特徴
3-2.成績について
4.受診をご検討の方へ
4-1.費用と公的制度
4-2.よくあるご質問
4-3.受診・ご相談
5.プライバシーと倫理
6.さいごに

0.はじめに――肝移植を検討されるあなたへ

肝臓は、からだの解毒や栄養の管理を担う、命に直結する臓器です。お薬などの通常の治療では回復が難しくなったとき、肝移植が命をつなぎ、日常生活を取り戻す選択肢になります。私たちは、患者さんとご家族が不安なく一歩を踏み出せるよう、治療の流れや手術、術後の生活までをわかりやすくお伝えします。


1.肝移植を理解する

肝移植とは

肝移植は、移植を受ける方(レシピエント)の肝臓を取り外し、提供された肝臓の一部または全部(グラフト)に置き換える治療です。日本では、親族から一部をいただく「生体肝移植」と、亡くなられた方からご提供いただく「脳死肝移植」の二つの方法があります。どちらも厳格な適応判定と安全管理のもとで行われます。

適応となる病気・状態

肝移植は、進行した肝硬変、劇症肝炎(急性肝不全)、胆道閉鎖症や代謝性疾患、Budd–Chiari 症候群など、従来の治療では回復が見込みにくい状態で検討されます。肝細胞がんがあっても、大きさや個数、肝機能の状態により適応となる場合があります。年齢は原則70歳未満を対象としますが、70歳未満であっても体力が十分でなければ適応にならないことがあります。合併症の有無(感染症、血栓、拒絶反応など)も重要な判断材料です。迷われた段階でご相談いただいて構いません。

ドナーについて

生体肝移植では、親族(血族6親等以内、配偶者、姻族3親等以内)の中から自発的に希望された方が厳密な健康チェックを受け、手術の安全性が十分に確保できる場合にのみドナーとなります。ドナー手術は健康な方に行うため、私たちは合併症のリスクを最小化することを最優先に、術式の選択や周術期管理を徹底しています。
脳死肝移植では、日本の臓器提供体制に基づき、公平で透明性の高いルールのもとで移植が実施されます。


2.治療のプロセス

診療の流れ

はじめての受診では、現在のご病状、これまでの治療歴、検査結果を整理し、肝移植が必要か、いつ頃が望ましいかを丁寧に評価します。必要に応じて血液検査、画像検査、内視鏡検査、心肺機能評価などを追加し、栄養やリハビリの専門チームも関わります。 生体移植を検討する場合は、候補ドナーの方にも個別に説明と検査を行い、医学的・心理的なサポートを用意します。脳死移植待機の登録が必要な方には、登録手続きや待機中の体調管理について具体的にご案内します。

手術の実際

肝移植は大きな手術で、肝静脈、門脈、肝動脈、胆管をつなぎ合わせて再建します。手術時間は長時間に及ぶことがあり、出血や血栓、感染、拒絶反応、胆管合併症などのリスクがあります。私たちは術前から多職種で準備を進め、術後は集中治療室で全身管理を行い、合併症の早期発見と対策に努めます。
一般的には順調であれば術後1~2か月で退院を目指しますが、病状や合併症の有無により入院が長くなることもあります。安全性と確実性を最優先に、無理のない回復計画を立てます。

退院後の生活とフォローアップ

退院後は、拒絶反応を抑える免疫抑制薬を継続しながら、外来で定期的に血液検査や画像検査を行います。日常生活は段階的に広がり、仕事や学業への復帰、運動、旅行なども体力の回復に応じて可能になります。感染予防、ワクチン接種、食事・栄養、服薬管理、妊娠・出産の相談など、ライフステージにあわせた支援を行います。再入院が必要な場面では、迅速に対応できる体制を整えています。


3.当院での肝移植

当院の特徴

肝移植は一般・消化器外科、消化器内科、小児外科、小児科、麻酔科、集中治療、感染症、リハビリ、看護、薬剤、輸血・細胞療法、栄養、医療ソーシャルワーカー、移植コーディネーターが連携する「チーム医療」です。私たちは、多職種が肩を並べて患者さんとご家族を支え、治療の各段階で最適な選択ができるように伴走します。生体・脳死いずれの移植にも対応し、難度の高い血管再建や胆道再建も多数の経験に基づいて行います。

成績について

肝移植は、重い肝疾患の方の生存率と生活の質を大きく改善する治療です。当院では開設以来、多くの患者さんに肝移植を行い、全国集計と比較しても良好な術後成績を維持しています。具体的な数値や近年の成績は、最新のデータを外来でわかりやすくご説明します。個々の病状により見通しは異なるため、担当医と一緒に現実的な目標を共有しながら治療計画を作っていきます。


4.受診をご検討の方へ

費用と公的制度

肝移植は公的医療保険が適用される治療です。そのため「高額療養費制度」や「自立支援医療」などの制度を利用し、自己負担額を抑えることができます。手続きや具体的な費用については、医療ソーシャルワーカーが個別にご案内しますので、お気軽にご相談ください。

よくあるご質問

Q. 年齢が高いと移植は受けられませんか?
A. 原則70歳未満としています。また、体力や合併症の状況によって判断します。
  
Q. 肝がんがあります。移植の対象になりますか?
A. がんの大きさや個数、肝機能の状態により適応となる場合があります。治療の選択肢を含めて個別に評価します。
  
Q. ドナー手術は安全ですか?
A. 健康な方を対象とするため、安全性を最優先に慎重な適応評価と周術期管理を行います。手術方法やリスクはわかりやすく説明し、同意のうえで進めます。
  
Q. どのくらいで社会復帰できますか?
A. 病状や合併症の有無によりますが、体力の回復に合わせて段階的に復帰します。職種や学校生活に応じた調整を一緒に考えます。
  
Q. 移植後の生活で気をつけることは?
A. 服薬の継続、感染予防、バランスのよい食事、定期受診が基本です。ワクチンや旅行、妊娠・出産などは主治医にご相談ください。

受診・ご相談

移植の適応があるかどうかは、検査を含めた総合的な評価で決まります。現在の治療で迷いがある方、タイミングが心配な方、ドナーについて相談したい方など、どの段階でも構いません。まずはお気軽にお問い合わせください。医療機関からの紹介状や過去の検査結果をお持ちいただくと、評価がスムーズです。セカンドオピニオンも受け付けています。


5.プライバシーと倫理

移植医療は、ドナーとレシピエント双方の尊厳を守る厳密なルールのもとで行われます。個人情報や医療情報の取り扱いには細心の注意を払い、説明と同意に基づいて進めます。倫理的な課題が生じる場合には、院内の倫理委員会で検討を行います。


6.さいごに

肝移植は、勇気ある決断を支えるチーム医療です。長い道のりに見えるかもしれませんが、私たちは一歩ずつ、わかりやすく、確実に伴走します。小さな疑問からで構いません。どうぞご相談ください。