膵臓の病気と治療
膵神経内分泌腫瘍(PNET)


目 次

1.膵神経内分泌腫瘍とは
2.どのような症状があるのでしょうか?
3.どのような検査を受けるでしょうか?
4.膵神経内分泌腫瘍の治療は具体的にはどうするのでしょうか?
5.慶應義塾大学病院での取り組み


1.膵神経内分泌腫瘍とは

神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine neoplasm: NEN)は人体に広く分布する神経内分泌細胞からできる腫瘍で膵・消化管・肺など全身の様々な臓器にできます。最近、広く疾患が認知されたことと画像検査の進歩により患者数が増加していることが報告されています。NENは高分化型の神経内分泌腫瘍 (Neuroendocrine Tumor:NET)と低分化型の神経内分泌癌 (Neuroendocrine Carcinoma:NEC)に分類されます。高分化型のNETは悪性度別でG1(低悪性度)/G2(中悪性度)/G3(高悪性度)に分類されます。また、インスリンやガストリンなどのホルモンを分泌して症状のある機能性NETとホルモンを分泌しない非機能性NETに分類されます。進行は比較的に緩やかですが、なかには急激に進行するものもあり注意が必要です。また、この病気には多発性内分泌腫瘍1型(MEN-1)やフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病など遺伝性疾患を背景としているものもあります。

図. 膵神経内分泌腫瘍とは|膵臓の病気と治療

2.どのような症状があるのでしょうか?

機能性NETの場合は特徴的な症状(低血糖、意識消失、下痢、潰瘍など)で診断されることが多いですが、非機能性NETの場合には、画像検査で偶然に診断されたり、大きくなってから診断されることがあります。

機能性腫瘍の特徴を以下に示します。
①インスリノーマ … 低血糖症状(ふらつき、冷や汗、意識消失)
②ガストリノーマ … 治りにくい胃・十二指腸潰瘍、下痢、脂肪便
③グルカゴノーマ … 耐糖能異常、皮膚の紅潮
④VIPoma(血管作動性腸管ペプチド)… ひどい下痢

また、遺伝性疾患であるMEN-1では副甲状腺機能亢進症によりカルシウムの濃度が高くなり尿路結石や腎機能障害、骨量の低下や骨折などの症状や下垂体腺腫による周囲の圧迫による頭痛や視神経の圧迫による視野狭窄などの症状を示すことがあります。
VHLでは副腎と呼ばれる臓器に腫瘍(褐色細胞腫)が発生しそれにより高血圧や冷汗を伴ったりします。また、中枢神経血管芽腫や腎臓がんなどの腫瘍を認めることがあります。

3.どのような検査を受けるでしょうか?

血液検査にて血糖値(インスリノーマ)や電解質異常(VIPoma)が特徴的とされておりますが、いずれも特異的ではありません。血中のホルモン値である程度の推測をします。腫瘍マーカーではNSEが上昇することがありますが特異的ではありません。CT検査やMRI検査は腫瘍の評価と遠隔転移の有無を調べる際に行います。PET検査やオクトレスキャン検査は腫瘍の悪性度や遠隔転移の有無、ソマトスタチン類似薬による治療の適応判定に用いられています。超音波内視鏡検査(EUS)にて腫瘍の評価と針生検(EUS-FNA)にて組織・細胞診断にて確定診断をします。機能性PNENで多発が疑われる場合には選択的動脈内刺激物注入試験(SASI)を行い、腫瘍部位の同定を行います。

4.膵神経内分泌腫瘍の治療は具体的にはどうするのでしょうか?

腫瘍の進行度と患者さんの全身状態により適切な治療方法を選択いたしますが、原則としては外科的切除が根治的治療となります。

(a)外科的治療

外科的治療として膵切除(膵頭十二指腸切除や膵体尾部切除、核出術、膵全摘)が腫瘍の部位により選択されます。インスリノーマや2㎝以下の非機能性PNENには縮小手術が選択されることもあります。肝臓に転移巣がある症例に対しては、あくまで症例ごとに治療方針を検討し、肝切除を行う場合もあります。

(b)血管内治療(TAE)・ラジオ波焼灼(RFA)

神経内分泌腫瘍の肝転移に対しては、外科治療以外に、他の肝腫瘤と同様に血管内治療による肝動脈化学塞栓術(TAE)やラジオ波と呼ばれる高周波の電気を流して腫瘍を焼き切るラジオ波焼灼術(RFA)も治療の選択肢として行われています。

(c)抗がん剤治療・分子標的薬

世界で神経内分泌腫瘍の薬物治療が注目を浴びており様々な薬剤の効果が証明されてきている。ソマトスタチンアナログ(オクトレオチドやランレオチド)はホルモン産生による症状を改善したり腫瘍増殖を抑制したりすることが示されています。また、分子標的薬のエベロリムスやスニチニブは予後延長効果が証明されています。細胞障害性の抗がん剤としてストレプトゾシンが用いられています。他にNECなど対しては小細胞肺癌の化学療法に準じてエトポシド+シスプラチン(EP療法)、イリノテカン+シスプラチン療法(IP療法)などが用いられています。抗がん剤も効果があるとはされておりますが、どのタイプにどの薬剤が効くか、といった細かい分野に関してはまだ発展途中であります。

図. 抗がん剤治療・分子標的薬-膵神経内分泌腫瘍|膵臓の病気と治療

5.慶應義塾大学病院での取り組み

膵神経内分泌腫瘍は良悪性の程度やタイプに様々な分類があるものの、外科的治療やその他の集学的な治療を行うことで確実に寿命を延ばせる病気です。当施設では肝胆膵クラスター(一般・消化器外科肝胆膵グループ、消化器内科、腫瘍センターなど)が中心となって総合的に治療方針を考えた上で最新の診断および治療を提供していきます。また、遺伝性疾患である多発性内分泌腫瘍1型(MEN-1)やフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病など多臓器に腫瘍を併存する疾患に対しては、それぞれの他診療科と協力して遺伝カウンセリングも含めた組織横断的な診療体制を整えています。

図. 肝胆膵クラスター|膵臓の病気と治療